第5話 待逢として (16) [△ ▽]

『おじさん、どこ行くの?』
 林田の脇に抱えられたふりかが訊く。
『……』
 林田は答えない。
『おじさん?』
『…………』
『……』
 ぼこっ。
『ぐっ!?』
 ふりかのストレートが林田のあごにクリーンヒット、思わずふりかを放す。
『きゃっ!!』
 ふりかが宙を舞い、地面を削って転がり岩に当たって止まる。
『いったーい。……痛くない?』
何をする!!
『ヒッ!?』
 林田の怒鳴り声にふりかがうろたえる。
『お、おじさん?』
『人質なんだ、おとなしくしてろ!』
『……やだ!!』
 ふりかがすっくと立ち上がり、駆け出す。
『おっと』
 ジャンプしてふりかの前へと飛び出す。
『えい!!』
『!?』
 どん!
 ふりかの体当たりをまともに受けて林田が飛ぶ。が、落ちる前に体制を整えて着地する。
『こら!!』
 すかさずふりかへと飛びかかる。
『!! イヤイヤイヤイヤ!!』
『!!』
 まさにだだっこのようにふりかは両腕を振り回し、それに気圧され思わず立ち止まる。
 ワースを着ている分、お互いに互角。
 差は、知力と技術。そのふたつとも林田の方が当然、上。
 だが、技術も何もないふりかの攻撃は、林田の格闘術が通用しないものだった。
『……ああ』
 もうひとつ、上回っているものがあった。
 手を振り回すふりかへと少しずつ近付き、その届かない距離から、頭を殴った。
『はうっ!?』
『リーチの差も、あったな』