第4話 機械の魔法、機械の天使 (19) [△ ▽]

「一番下はなんです? 先ほどは鳴動とおっしゃってましたけど」
「それなのよねー」
 ダブルクリックすると、折れ線グラフが表示される。
「……これ、何かわかる?」
 シーバリウはウィンドウを凝視する。
「正直、これが一番わかんないのよねー。なんとなく法則性は解ってきたんだけど、それでもこれがうまくいかなくて魔法が起動しないことって多いし……」
「これは稀法石の鳴動ですね」
「え?」
 シーバリウがマウスを操作して「右手の動き」を手前に表示する。そして、その軌跡を右手で追う。その動きは正確にトレースされていたが、異なる点がひとつ。
「指……」
 シーバリウの指、正確には手首から先が別種の生き物かのように空を遊泳する。その動きを続けながら、シーバリウは答える。
「指の動きの代わりに、この稀法石の鳴動が使われているんです」
「指も関係あるの?」
「本来、純粋魔法はありとあらゆる方法が許されていて、その組み合わせによって呪文が表現されるんです。たとえば、左手、左の指、右手、右の指、そして言霊……」
 シーバリウは深呼吸をし、目を細めてから、集中する。



【右手が大きく楕円を描く】スィよ出でよ!
【右掌が返り五指が伸びる】
【〔□燒咎、、僖广袍∀と】
【左掌を開き隠し包み込む】
【左手が小刻みに震え下る】


 シーバリウの目の前にきらめく何かが生まれる。それが宙にある間にシーバリウが掴み取る。
「い、今の……純粋魔法……???」
「はい。かなり初歩のですが」
 シーバリウがジャージに渡す。それは、いびつな形ながらも、やや白色がかった透明で、プラスチックでもガラスでもない特殊な質感を持った、宝石のようなきらめきを放つものだった。
「これは?」
「スィーというものです。こちらの言葉で言うと……そうですね、『初心』といったところでしょうか。純粋魔法を勉強するときに最初にこれを作らされるんです。でも僕はちゃんとした形にならなくて……」
 シーバリウは恥ずかしそうに頭を掻いたが。
「ううん……純粋魔法って初めて見た。こんななんだ……」
 ジャージは、感動することしきりだった。