第4話 機械の魔法、機械の天使 (18) [△ ▽]

 いつものガレージ。
 装甲多脚の隣、モニターの前にジャージとシーバリウが並んで座る。
「えーっと……これがいいかな」
 フォルダから 210503.mdl というファイルを右クリックし、メニューから「Primitive Magic Designerで開く」を選択
「っと、こっちの方が見やすいね」
 ジャージがモニターを倒し、代わりに空間へと画面が投影される。
「確かにこちらの方が見やすいですね」
「私はどっちでも変わらないんだけどね」
 ジャージがゴーグルとこんこんと叩く。
 その間に、画面にはウィンドウがいくつも開く。
「これが純粋魔法を作るためのアプリ」
「こんなものがあるんですね」
「HACのカタログに載ってるよ。使うためには本当に純粋魔法の知識が必要になるけど……」
 いくつか開いたウィンドウのうち、中央のウィンドウには横長の長方形が縦に3つ並んでいる。
「これは同時実行する魔法のシークェンス。上から右手、音、鳴動」
 「右手」に当たる長方形をダブルクリックすると新たにウィンドウが開く。映像が立体的になり、空間に曲線が描かれる。
「稀法石の軌跡……」
「その通り」
 「>」ボタンを押すと軌跡上を丸印が移動していく。
「これが手の動き。呪文の方はこれ」
 中央の長方形をダブルクリックすると、新たなウィンドウが表示され、その中に全く読めない文字の羅列が並ぶ。
「!! これは本当に純粋魔法ですね……」
「読めるの? これ」
「はい。『↑諂栖麻扨ー韲。¥碰軾湶』……」
 それは、声とすら呼べない。
 その口の、その喉の、どこから出ているというのだろうか。それは時には旋律、時には音韻、時には聞き取ることすらできない空気の流れ。その純粋魔法のまさに呪文をシーバリウは音読した。
「………………」
 ぱちぱちぱち。
「!?」
 驚いて見れば、ジャージは心底感嘆して無意識のうちに拍手をしていた。
「お、大袈裟ですよ……」