第3話 三者三様 (9) [△ ▽]

「ひゃーっ!!」
 頬を打つ風、手の届きそうな空、流れる山麓。澄み渡った青空の中を、杖に乗ったシーバリウとうめが風を切って疾走する。
「すっごーい!」
 上空から見る景色は、やはり絶景だった。遠く見下ろす山々は濃緑色に包まれ、その空との境界線は白く霞がかっている。上を見上げれば雲ひとつない青空、まるで大海原のような紺色の天球は吸い込まれそうなほど透き通っている。
「あー、ちょっと左の方に回ってみてー!!」
「はい!」
 シーバリウが杖を傾けると、風景が流れていく。遠くの山々が視界から外れ、代わりに駅と街並みが見えてくる。山々を縫って走る車道と線路が行き着く先には、真っ平らな大地に灰色の建物がモザイクのように敷き詰められていた。
「ホントはね、あの駅まで行って買い物しようって思ってたんだけど!」
「行ってみます? 1時間くらい掛かりますけど」
「んー、今日はいいや。えっと」
 うめは下を見下ろす。地面が遥か眼下に見えていても、恐怖心は現れない。うめが座る「二人乗り用サブシート」にまるで体が固定されているかのような安定感が、落ちることはないことを約束していた。そううめには感じられたし、感じられることもできた。
 だから、ちょっと体を乗り出して下を見る。
 山々を流れる川、その川に沿って走る車道、車道の端、山間に入ったところに学校、その反対側、車道と川の間に建てられた旅館山田屋、そこから離れたところに装甲多脚のガレージ、その間、山の方へと石段が伸び、その上、山の二合目あたりの開けた場所に神社がある。
 神社のある場所のように、山の中腹には至る所に削られたスペースがある。青々とした天然の芝生が生い茂る場所もあれば、赤土が見え重機が置かれたままの場所もある。
「あそこに降りて!!」
 うめが指さす方向には、そんなスペースのひとつ、山間に開けたあまり雑草の生い茂っていない場所だった。
 ふたりがそこに降りると、すぐにジャージはシートを広げる。
「じゃ、初デートはピクニックってことで」
「は、はい……」
「なに? 緊張してんの?」
 嫌らしい笑みにシーバリウは怒る。
「そ、それはそうですよ。デートというのも初めてなんですから……」
「それは、わ」
 私も、そうだ。
 ……でも、あんまり緊張してないかも……。
「それにしてもここは、私の故郷に似ていますね」
「え?」