第2話 好きとスキと (11) [△ ▽]

「……大丈夫?」
 中腰で心配する紫恋に、ちょっとばつの悪そうな顔を見せてから、素直にうなずいた。
「あいつ、投げた時に手を離してたから受け身を取れた」
「へー、ぶん投げられてたから危なそうだったけど」
「わざと広い方に投げていたし……大怪我させない自信があったんだろ」
 とはいえ。
 それでも、当たり方が悪ければ、最悪死ぬことだってあったはずだ。この硬い教室の床、頭を打ち付けていたら……それに、受け身に失敗していたら、背骨を痛めていたかもしれない。その時は半身不随の可能性もある。
 それは、自分も同じ。
 絶対の自信があっても、本気で技を掛ければ、その結果は保証できない。
 高士は身震いする。
 シーバリウに起こしかねなかった最悪の事態に。
 自分に起きたかもしれない最悪の事態に。
 シーバリウの目に。
 でも。
 最後のシーバリウの目と言葉は、違う意味の本気だった。
 高士はすっくと立ち上がり、ほこりをはたいて平気だということを証明する。
「悪かったのは俺の方だ。先生に言ったりすんなよ」
「へー、認めるんだ」
「何を?」
「負け」
「……」
 悔しい。
 「次」すら考えずに「格」で負けたと認めてしまっていた自分に。
「……あいつ、王子だったよな」
「うん、そう言ってた」
「戦争とか……やってんのかな」
「……え?」
「あいつの目、そういう目だった。だから、レベルが違う、そう感じた」
「言い訳?」
「かもな。……やっぱ姉さんは、あいつには近づかない方がいい」
「んー……」
 うめ次第。
「あ、無理か」
「無理って何よ無理って」
「なんでもねー。部活行ってくる、ちゃんとパーティーも出るから」
 その背中を見送って、紫恋は溜息をついた。