第3話 三者三様 (20) [△ ▽]

「あー、私も早くAPになりたーい!」
 次の週、試験前最後の土曜日。
 長い長い石段を登る途中で、うめは唐突に叫んでいた。
「AP……って……」
 と、シーバリウは口ごもってしまう。
「 Advanced Person 、まぁ簡単に言えば強化人間ね」
 ジャージが答える。
「そ、パパとママもそうなんだけど、本当に階段とかひとっ飛びくらいなんだもん、あたしも早くなりたいなー」
「そういえばそうでしたね」
 と、触れていい話題ということを知ってホッとしてから、改めて訊く。
「APというのは、こちらでは普通の存在なのでしょうか」
「うん、んっと」
 少し体を乗り出してまわりを見る。石段から見下ろすと、山間の畑や家屋が見える。
「あそこのおじいちゃんとおばあちゃんもそうだし、うちのおばあちゃんもそう。高畠先生もそうだよ確か」
「そんなに?」
「ってゆーか私の認識だと年取ったらやるもんだと思ってるんだけど。あんたの歳じゃまだ補助金が出るまでだいぶ先だよ?」
「それはそうなんだけど……」
「……もしかして、はこねさんの歳って……」
 うめとジャージが見ると、シーバリウはお化けでも見たような顔だった。
「違う違う、ママはね、交通事故にあっちゃってそのときAPになったの」
「あ、そうだったんですか」
「でもAPの能力にアンチエイジングもあったはずだから若作りなのは確かかも……」
 ジャージはにやりと笑って。
「ねぇ、はこねさんの本当の年齢っていくつ?」
「知らない」
 ぶっきらぼうに、そう答えた。
「えー? だいたいの歳くらい」
「中学の時」
 瞳孔の開いた目が、正面を向いたまま答える。
「私、ついみんなに言っ……ねぇ、身体強化型APって知ってる? あのね」
 うめの手が、空を掴み、振る。
「電ノコってあるでしょ、あれが肉にはまって止ま、止ま、えーっとあんまよく憶えてないや……」
「うめさん……」
「うめ……」
 まるで白昼夢のうわごとのように、ふたりを見ることなくそう答えていた。